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絵画の「間」と歩く「間」——オーブリー・ビアズリー展で出会った、感性のご褒美時間

丸の内・三菱一号館美術館「オーブリー・ビアズリー展」髪盗み

先日、丸の内・三菱一号館美術館で開催中の「オーブリー・ビアズリー展」を訪れました。

世界有数のビアズリー・コレクションを有するヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(V&A)から150点が来日。これに三菱一号館美術館や国内美術館の所蔵作品などを加え、展示総数は見ごたえ抜群の約220点。初期から晩年までの代表作が、時代順の変遷とともに体感できるビアズリー展の傑作選です。

丸の内・三菱一号館美術館「オーブリー・ビアズリー展」を訪れる仲村涼


白と黒の世界、緻密な点と線の向こう側に広がる静けさと緊張感——持病の肺結核のため、わずか25年の生涯で生み出された数々の作品は、時代や国を超えて、今も私たちの心をとらえて離しません。

19世紀末、耽美(たんび)主義が花開いたロンドン。
ビアズリーは、文学作品の挿絵を中心に活躍し、細密な線描と大胆な構図、独特の陰影で、退廃と洗練の美を同居させました。

偏った構図から生まれる「余白」の妙

展示を巡るなかで印象に残ったのは、モチーフを中央に配置するのではなく、あえて端へ寄せた構図。
そうすることで空間の「余白」が際立ち、むしろそこに漂う“見えない何か”の存在が感じられます。

まるで、自分がその空白の中に立っているような気持ちになるのです。

丸の内・三菱一号館美術館「オーブリー・ビアズリー展」A
night piece

私が最もはっとしたのは、この作品「A night piece」。真っ黒な余白の中に左に偏って横によぎる女性。描かれているのは、衣服のラインと白い肌のわずかな輪郭のみ。
しかし、その「描かない」ことで生まれる静けさに、目を奪われました。

1894年、ビアズリーは当時ファッショナブルで都会的なコンセプトを持つ新雑誌「The Yellow Book」のアートエディターに抜擢されたのですが、このときに描いたいくつかの作品に描かれている女性像は、このような無機質な横顔と、空間の持つ静けさが特徴的。

沈黙と無の空間に生まれる、強いメッセージ。この余白は、当時のジャポニズムの影響もうかがわせます。歩き去っていく瞬間なのか、たたずんでいるのか、誰かと話しているのか…? 「間」が観る人の想像を掻き立てます。

緻密な点のタッチは現物でしかわからない

丸の内・三菱一号館美術館「オーブリー・ビアズリー展」髪盗み

次に目を奪われたのは、ビアズリーが晩年の頃のこの作品「髪盗み」。

この頃のビアズリーは、より細部まで描き込む繊細なタッチへと変化しています。ドットや線で描く豪華なドレスやレースの文様の美しさは、本物の刺繍やレースのように繊細で時間が経つのを忘れるほど見入ってしまいます。豪華な椅子の座面の文様から、窓枠のカーテンまで、気の遠くなるほどの線と点が寸分の狂いもなく存在するのです。それとは反対に、狂いのない構図の中にも、独特の有機的な隙間から生み出される温かみも感じます。

入館ギリギリの時間になって訪れたため、これらのより精緻になった晩年の作品はもっとじっくりと観たかったというところ。

ビアズリーは、制作中の作品は絶対に人に見せなかったそう。世に出す作品に関しても「今回は、まぁまぁの出来栄え」などと評していました。努力したり失敗している姿を絶対に見せない完璧主義。そういった彼の作品への取り組む姿勢は、完璧な構図を生み出す彼の性格そのもの。

ビアズリーの代表作『サロメ』

丸の内・三菱一号館美術館「オーブリー・ビアズリー展」サロメsalome
クライマックス The Climax 1893年
ついにヨカナーンの首を手に入れ、歓喜に浸るサロメ。これは二作目だが、預言者から滴る血は様式化され、複雑な線が取り除かれている。入念に組み立てられた画面構成は、最盛期のビアズリーの真骨頂とも言える。

ビアズリーで最も知られている作品群が、作家オスカー・ワイルドの作った「サロメ」という戯曲の挿絵。ビアズリーと同時代に活躍したイギリスの作家、ワイルド氏は、ビアズリーの親友。

ワイルド氏が新約聖書のサロメ伝説をもとに、独自の解釈(官能的かつ邪悪な物語)を加えて創作した戯曲が「サロメ」です。サロメはもとはフランス語でしたが、1894年に英語版出版の際に、ビアズリーの挿絵が加えられました。

ビアズリーは多くのクリエイターたちに影響を及ぼしました。手塚治虫も「MW(ムウ)」でサロメをオマージュしています。

丸の内・三菱一号館美術館「オーブリー・ビアズリー展」サロメsalome
黒いケープ The Black Cape 1893年
流行のドレスに身を包む女性。左右非対称の構図や大胆に残された余白に、ジャポニズムからの影響が示唆される。「とてもきれいだけれど劇の内容とは無関係だ」とビアズリーは友人に打ち明ける。
丸の内・三菱一号館美術館「オーブリー・ビアズリー展」サロメsalome 孔雀の裳裾(もすそ)The Peacock Skirt 宴を抜け出したサロメが、自身をヨカナーンに引き合わせるよう、若いシリア人の隊長に迫る。この傲慢な王女の姿を、ビアズリーは、画面下半分を覆う流線形の長いマントで示そうとした。その裾には、唯美主義運動の全盛期に人気を博した孔雀の羽根の文様が配されている。背面を強調した構図や孔雀のモチーフには、ホイッスラーによる「孔雀の間」の装飾の影響が表れる。
孔雀の裳裾(もすそ)The Peacock Skirt 1893年
宴を抜け出したサロメが、自身をヨカナーンに引き合わせるよう、若いシリア人の隊長に迫る。この傲慢な王女の姿を、ビアズリーは、画面下半分を覆う流線形の長いマントで示そうとした。その裾には、唯美主義運動の全盛期に人気を博した孔雀の羽根の文様が配されている。背面を強調した構図や孔雀のモチーフには、ホイッスラーによる「孔雀の間」の装飾の影響が表れる。

展示会のあとは、緑豊かな中庭で余韻に浸るひとときを

丸の内・三菱一号館美術館「一号館広場」丸の内ブリックス

展示のあとは、美術館と丸の内パークビルディングを囲むように広がる緑豊かな中庭、「一号館広場」へ。

丸の内・三菱一号館美術館「一号館広場」丸の内ブリックス

東京駅、丸ビルからも近いこの中庭で過ごす時間もまた素敵。ベンチに腰かける人、談笑する人、読書をする人、噴水や美しい夜景に見入る人……曲線のビルの間にかけめぐる柔らかなそよ風の中で、私もしばらく余韻に浸りました。

丸の内パークビルディングの低層階に位置する商業ゾーンは、丸の内ブリックスクエアと呼ばれ、地下1階から地上3階には、アパレル、コスメ、レストランなど様々な店舗が並び、ショッピングや食事も楽しめます。ショッピングのみならず、展示会とセットで、食事や散策を兼ねれば友人やパートナーとここだけで豊かに一日を過ごせるかも。

この日は、スペイン王室御用達のショコラテリア「カカオ サンパカ」、高級バター専門店「エシレ・メゾン デュ ブール」、「ジョエルロブション」へ。味覚まで満たされる、特別なご褒美です。

構造があるから、「間」が映える

ビアズリーの作品から感じた「間」の美しさは、日常生活の中でも大切にしたい感覚です。きちんと構成された土台の上にこそ、「間」が意味を持つのです。構図を整えたうえで、あえて何も置かない余白を残す。それが視線を導き、感情を揺らします。

美しい歩き方にも、「構造」と「間」が必要です。
ただ姿勢を良くするのではなく、どこに力を入れて、どこで抜くのか。前へ出る足の動きだけでなく、力の抜き方、後ろ足の細部の使い方、呼吸との連動にも意識を向けることで、歩き方には品格が生まれます。

たとえば、軸を捉えてしっかりと筋肉を使えている脚と、リラックスした脚の間に、余白のように静けさが生まれ、動きに呼吸が宿ります。そこに、しなやかさと知性を感じさせる美しさが立ち上がってくるのです。

意図的に生まれた余白が、全体のバランスやリズムを整え、見る者の心を惹きつける。そんな「間」の力を、日常の所作や体の動きの中にも取り入れていけたらーーー私はそう思っています。

昨年スタートしたウォーキング講師養成講座にも、少しずつ心強い仲間が増えてきました。
筋肉の構造を理解し、正しい動きを習得することで、リズムと静けさが共存する美しい歩き方が育っていきます。しなやかで知性を感じさせる身体の「間」を、一緒に見つけていきましょう。

美しさは、いつも余白の中に宿ります。
その感覚を分かち合える時間を、レッスンでお待ちしています。

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